お盆で家族が実家に集まる——遠方に住む兄弟姉妹も含めて全員が顔を合わせられるのは、1年のうちお盆とお正月くらい、というご家庭は多いと思います。実はこの時期、当事務所でも「帰省したときに親と話したことがきっかけで」というご相談が目立って増えます。2026年7月に行われた民間の意識調査でも、親の相続についてまだ具体的に話せていない人の約半数が「お盆に話したい」と答えています。とはいえ、「縁起でもない」と思われそうで切り出しにくいのも相続の話です。本記事では、気まずくならない切り出し方の工夫と、お盆のうちに確認しておきたい5つのこと、そして話し合いの後にやることを、堺市の相続専門税理士が解説します。
なぜ「お盆」が相続の話に向いているのか
相続の話し合いは、関係する家族が全員そろっている場で行うのが原則です。一部の人だけで話を進めると、その場にいなかった人が後から「聞いていない」と感じ、それ自体がもめごとの種になるからです。全員が自然に集まるお盆は、その意味で貴重な機会です。
もうひとつの理由は、相続の準備は「元気なうち」にしかできないことです。遺言書の作成も、生前贈与も、ご本人の判断能力があることが前提です。認知症などで判断能力が失われると、これらの選択肢は使えなくなり、預金口座が凍結されて家族が引き出せなくなることもあります。また、亡くなった後の相続税申告には10か月の期限があり、財産のありかを家族が知らないと、その把握だけで何か月も費やしてしまいます。
さらに、税制の面でも早く動くほど選択肢が広がります。たとえば相続財産に足し戻される生前贈与の期間は3年から7年に延長されており、贈与による対策は始めるのが早いほど効果が出やすくなっています。「まだ早い」と思ううちが、実はいちばんの始めどきです。
気まずくならない切り出し方 ― 4つの工夫
いきなり「相続の話をしよう」と切り出すと、親世代は「財産をあてにされている」と感じて心を閉ざしてしまうことがあります。次のような入り方がおすすめです。
- ① 「お金」ではなく「実家・お墓」から入る … 「この家、将来どうする?」「お墓は誰が見ていく?」という話題は、財産の話より格段に切り出しやすく、そこから自然に相続全体の話につながります。実家の今後については別の記事で詳しく解説しています。
- ② きっかけを外に作る … テレビのニュースや、知人・親戚の相続の話を借りて「うちはどうなんだろうね」と水を向けると、押しつけがましくなりません。
- ③ 子ども世代が先に自分の話をする … 「自分もエンディングノートを書いてみた」「うちも遺言のことを考え始めた」と、まず自分ごととして話すと、親世代も構えずに話せます。
- ④ 「親のため」の視点で話す … 「財産を教えて」ではなく、「入院したときに困らないように、保険と通帳の場所だけ教えてほしい」という言い方なら、目的が明確で受け入れられやすくなります。
⚠ 結論を急がない
お盆の話し合いのゴールは、遺産の分け方を決めることではありません。「この家族は相続の話をしてもいい」という雰囲気を作れれば十分な成果です。1回で決めようとすると、かえって関係がこじれます。
確認しておきたい5つのこと
話せる雰囲気ができたら、次の5つを少しずつ確認していきます。すべてをお盆の間に聞き出す必要はありません。
① 財産のありか
金額を聞く必要はありません。「どの銀行に口座があるか」「保険はどこの会社か」「不動産の権利証や実印はどこにあるか」——この「ありか」を家族が知っているだけで、相続が起きたときの財産調べの負担がまったく違います。ネット銀行・ネット証券の口座は通帳がなく、家族が存在に気づけないことも多いので、特に確認しておきたいところです。
② 実家をどうするか
実家に将来誰か住むのか、空き家になりそうなのかで、取るべき対策は大きく変わります。誰が相続するかによって小規模宅地等の特例(土地の評価額を最大80%減額)が使えるかどうかも変わります。あわせて、登記の名義が祖父母のままになっていないかも確認しておきましょう。
③ 遺言の有無・意向
遺言書をすでに作っているか、作る意向があるか。作っている場合は、どこに保管しているか(自宅・公証役場・法務局の保管制度)だけでも聞いておくと、いざというときに探し回らずに済みます。
④ 認知症への備え
判断能力が失われると預金の引き出しや不動産の売却が難しくなり、遺言や贈与もできなくなります。介護費用を誰がどう立て替えるのか、お金の管理を誰に任せたいのか——方向性だけでも話しておくと安心です。なお、親のお金を子ども名義の口座に移して管理する方法は、名義預金として相続税の問題を生みやすいのでおすすめしません。
⑤ 生前贈与の希望
住宅資金や教育資金の援助をしたい・してほしいという希望があるなら、非課税の特例や生前贈与の制度をうまく使うことで、相続税の負担を減らせる場合があります。ここは制度の選び方で結果が大きく変わるところなので、実行する前に税理士へご相談ください。
やってはいけない3つのこと
- ① いきなり「分け方」の話をする … 財産の全体像も親の意向も分からない段階で「家は誰がもらう」という話をすると、ほぼ確実にこじれます。順番は「ありかの確認 → 親の意向 → 分け方」です。
- ② 一部の家族だけで進める … 兄弟姉妹の誰かが知らないところで話が進むと、内容が妥当でも感情的な対立につながります。全員がそろうお盆だからこそ、全員の前で話しましょう。
- ③ その場で書類に署名させる・お金を動かす … 勢いで進めた手続きは後悔のもとです。方向性を共有するにとどめ、具体的な手続きは専門家に確認してからにしてください。
話し合いのあとにすること
お盆に話ができたら、次の3つにつなげると、話し合いが「言いっぱなし」で終わりません。
- ① 財産のメモを作る … 聞いた内容を簡単な一覧にしておきます。市販のエンディングノートでも、手書きのメモでも構いません。当事務所の必要書類チェックリストも項目の参考になります。
- ② 相続税がかかりそうか、ざっくり確認する … 相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり、かからないご家庭も多くあります。財産の概算が分かったら、相続税シミュレーターで目安を確認してみてください。
- ③ 必要に応じて専門家に相談する … 基礎控除を超えそうな場合や、不動産の分け方・遺言の作成・生前贈与を考えたい場合は、早めの相談が選択肢を広げます。遺言や登記が関わる場合は、当事務所から提携の司法書士等と連携してサポートすることもできます。
まとめ
- 家族全員がそろうお盆は、相続の話をする1年で数少ない機会。相続の準備は「元気なうち」にしかできない。
- 切り出しは「実家・お墓」の話から。きっかけを外に作る、自分の話から始める、「親のため」の視点で話す。
- 確認したいのは、①財産のありか ②実家の今後 ③遺言の有無 ④認知症への備え ⑤生前贈与の希望、の5つ。
- いきなり分け方の話をしない。一部の家族だけで進めない。その場で書類やお金を動かさない。
- 話し合いの後は、財産メモの作成 → シミュレーターで概算 → 必要なら専門家へ、の順で。
この記事のよくある質問
親が相続の話を嫌がります。どうすればよいですか?
無理に「相続」という言葉から入る必要はありません。実家やお墓をどうするか、通帳や保険がどこにあるか、といった具体的で身近な話題から始めると受け入れられやすくなります。ニュースや知人の相続の話をきっかけにする、子ども世代が自分のエンディングノートを書いてみせる、といった方法も有効です。1回で決めようとせず、まず「話してもいい雰囲気」を作ることを目標にしてください。
お盆の話し合いでは、何から確認すればよいですか?
最初に確認したいのは「財産のありか」です。どの銀行に口座があるか、保険に入っているか、権利証や実印をどこに保管しているか——一覧表になっていなくても、保管場所を家族が知っているだけで、いざというときの負担が大きく変わります。次に、実家を将来どうするか、遺言書を作っているか(作る意向があるか)を確認できれば十分です。
相続税がかかるかどうかだけでも知りたいのですが。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり、正味の遺産がこの範囲に収まれば原則として相続税はかかりません。財産のおおよその金額と相続人の人数が分かれば、当事務所の無料の相続税シミュレーターで概算を確認できます。基礎控除を超えそうな場合や、不動産の評価が分からない場合は、無料相談をご利用ください。
参考(出典)
- 国税庁 タックスアンサー No.4102「相続税がかかる場合」
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」
- Sasuke Financial Lab株式会社「親の相続に関する意識調査」(2026年7月)