お盆の帰省で久しぶりに実家に泊まり、「この家、将来どうするんだろう」と感じた方は多いのではないでしょうか。子ども世代がそれぞれ持ち家に住んでいるご家庭では、実家はいずれ「誰も住まない家」になる可能性が高く、相続をきっかけにその問題が一気に現実になります。本記事では、実家を相続したときに起きること(相続登記の義務・維持費)、相続税で土地の評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例が使える人の条件、売却するときの空き家の3,000万円特別控除、そして貸す・残す場合の注意点を、堺市の相続専門税理士が解説します。

実家を相続すると起きること ― 登記の義務と維持の負担

実家を相続すると、住む・住まないにかかわらず、次の3つがもれなく付いてきます。

  • ① 相続登記の義務 … 2024年4月から相続登記は義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。義務化前に相続した不動産も対象で、こちらは2027年3月31日までに申請が必要です。
  • ② 毎年の固定資産税と維持費 … 誰も住まなくても、固定資産税・都市計画税、火災保険料、水道光熱費の基本料金、庭木の手入れなどの負担は続きます。
  • ③ 管理の責任 … 放置して倒壊のおそれや衛生上の問題が生じ、自治体から「特定空家等」や「管理不全空家等」として勧告を受けると、固定資産税の住宅用地の軽減(小規模住宅用地で課税標準6分の1)が外れ、税負担が大きく増えることがあります。

つまり、実家は「もらって終わり」の財産ではなく、持ち続ける限り費用と責任が発生する財産です。だからこそ、住む・貸す・売るの方針を早めに決めることが大切になります。

相続税はどうなる?小規模宅地等の特例が使える人・使えない人

相続税の計算では、実家の土地は路線価等で評価されますが、一定の条件を満たす人が相続すると、小規模宅地等の特例により330㎡まで評価額を80%減額できます。5,000万円の評価の土地なら1,000万円で計算できる、影響の非常に大きい特例です。

被相続人が住んでいた自宅の土地についてこの特例を使えるのは、主に次の3パターンです。

  • ① 配偶者が相続する … 無条件で適用できます。
  • ② 同居していた親族が相続する … 相続税の申告期限(10か月)まで、その家に住み続け、かつ保有し続けることが条件です。
  • ③ 別居の親族が相続する(いわゆる「家なき子」特例) … 被相続人に配偶者も同居の法定相続人もいない場合に限られます。さらに、相続開始前3年以内に自分・配偶者・3親等内の親族などの持ち家に住んだことがない、過去にその家を所有していたことがない、申告期限まで保有し続ける、といった条件をすべて満たす必要があります。

⚠ 「子どもは全員持ち家」だと特例が使えないことも

親が一人暮らしで、子どもたちがそれぞれ持ち家に住んでいる場合、③の「家なき子」の条件(3年以内に持ち家に住んでいない)を満たせず、誰が相続しても80%減額が使えないケースが少なくありません。実家の土地の評価額が大きいご家庭では、相続税額を大きく左右するポイントですので、生前の段階で一度試算しておくことをおすすめします。

なお、被相続人が老人ホームに入居していて自宅が空き家だった場合でも、要介護認定・要支援認定などを受けて入居しており、空いた自宅を貸したりしていなければ、自宅の土地として特例の対象になり得ます。「施設に入っていたから使えない」とあきらめる前にご確認ください。

売るなら ― 空き家の3,000万円特別控除

誰も住まない実家を相続した場合、選択肢として最も多いのが売却です。このとき使える可能性があるのが、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」です。売却益(譲渡所得)から最大3,000万円を差し引けるため、譲渡所得税を大きく減らせます。

主な要件は次のとおりです。

  • 相続開始の直前まで被相続人が一人で住んでいた家であること(老人ホーム入居の場合の例外あり)
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(マンションなど区分所有建物は対象外)
  • 相続してから売却まで、事業・貸付け・居住の用に供していないこと(貸すと使えなくなります
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 耐震基準を満たす家屋として売るか、取り壊して敷地だけを売ること。2024年以降の売却では、引き渡し後、譲渡の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取り壊しを行う場合も対象になりました
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。また、この特例の適用期限は2027年(令和9年)12月31日までの売却とされています
  • 相続人が3人以上の場合、控除額は1人あたり2,000万円になります
誰も住まない実家 3つの選択肢 売る 空き家の3,000万円 特別控除が使える可能性 ・昭和56年5月31日以前築 ・売却まで貸さない ・3年目の年末までに売却 ・耐震改修 or 取壊し ・代金1億円以下 貸す 家賃収入を得ながら保有 ・不動産所得の申告が必要 ・空き家3,000万円控除は  使えなくなる ・修繕・管理の負担は続く 残す 思い出の家を維持 ・固定資産税・維持費が続く ・管理不全で勧告を受けると  固定資産税の軽減が外れる ・時間が経つほど売りにくく  なりやすい
図:誰も住まない実家の3つの選択肢と税務上のポイント

⚠ 売却のタイミングと小規模宅地等の特例

「家なき子」特例や同居親族として小規模宅地等の特例を使う場合、相続税の申告期限(10か月)まで実家を保有し続けることが条件です。相続してすぐに売却の契約をすると、80%減額が受けられなくなることがあります。売却を急ぐ事情がある場合も、契約の前に必ずご相談ください。

貸す・残す場合の注意点

貸す場合は、家賃収入について不動産所得の確定申告が必要になります。また、前述のとおり、いったん貸してしまうと空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。「数年貸してから売る」という計画は、税負担の面では不利になることがあるため、トータルでの比較が必要です。なお、生前から貸している家の敷地は、条件を満たせば貸付事業用宅地として200㎡まで50%の評価減の対象になる場合があります。

残す場合は、①費用と管理を誰が負担するかを相続の話し合いで決めておくこと、②共有名義を安易に選ばないことが大切です。兄弟姉妹の共有にすると、その場は公平に見えますが、売却にも大規模な修繕にも全員の同意が必要になり、次の世代に相続が進むほど権利関係が複雑になります。「とりあえず共有」は将来の紛争のもと——これは相続の実務で繰り返し目にする失敗です。

お盆のうちに確認しておきたいこと

実家の将来は、相続が起きてから考えると時間の制約(申告期限10か月・売却は3年目の年末まで)に追われます。家族がそろうお盆のうちに、次の点を確認しておきましょう。話の切り出し方は「お盆に家族が集まったら。相続の話の切り出し方」で詳しく解説しています。

  • 登記の名義 … 実家の名義が祖父母のままになっていないか。古い名義のまま放置すると、相続人が増えて手続きが格段に難しくなります。
  • 建築年 … 昭和56年5月31日以前の建築かどうかで、空き家の3,000万円特別控除の対象になるかが変わります。
  • 住む人がいるか … 誰かが戻る可能性があるのか、それとも空き家が確実なのか。小規模宅地等の特例の使い方(誰が相続するか)にも直結します。
  • 荷物と仏壇 … 実際の売却で意外と時間がかかるのが家財の整理です。お盆のうちに少しずつ方針を話しておくと、後がずっと楽になります。

まとめ

  • 実家の相続には、相続登記の義務(3年以内・過料あり)、毎年の維持費、管理責任が付いてくる。
  • 小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)が使えるのは、配偶者・同居親族・条件を満たす「家なき子」。子ども全員が持ち家だと使えないことがある。
  • 売るなら空き家の3,000万円特別控除。昭和56年5月31日以前築・貸していない・3年目の年末まで・代金1億円以下などの要件があり、適用期限は2027年12月31日までの売却。
  • 貸すと空き家控除は使えなくなる。「とりあえず共有」は将来の紛争のもと。
  • 売却のタイミングは小規模宅地等の特例の保有継続要件と衝突することがある。契約の前に税理士へ。

この記事のよくある質問

相続した実家の登記をしないままだと、どうなりますか?

2024年4月から相続登記は義務になっており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請が必要です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。義務化より前に相続した不動産も対象で、こちらは2027年3月31日までに申請が必要です。祖父母名義のまま放置された不動産は、相続人が増えて話し合いが難しくなる一方なので、早めの手続きをおすすめします。

小規模宅地等の特例と空き家の3,000万円特別控除は併用できますか?

対象となる税金が異なるため、それぞれの要件を満たせば両方使える場合があります。小規模宅地等の特例は相続税を計算するときの土地の評価減、空き家の3,000万円特別控除は売却したときの譲渡所得税の控除です。ただし、いわゆる家なき子特例で小規模宅地等の特例を受けるには相続税の申告期限まで実家を保有している必要があるため、売却のタイミングには注意が必要です。適用の可否と順序は事前に税理士へご相談ください。

実家は取り壊してから売った方がよいですか?

一概には言えません。空き家の3,000万円特別控除は、耐震基準を満たす形で売るか、取り壊して敷地だけを売るかのどちらでも使えます。2024年以降の売却では、引き渡し後に買主が翌年2月15日までに耐震改修や取り壊しを行う場合も対象になったため、そのまま売れるケースが広がっています。一方、建物を取り壊すと固定資産税の住宅用地の軽減がなくなり、更地の税額が上がる点には注意が必要です。売却の見込みが立ってから壊すのが基本です。

参考(出典)

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する税務上のアドバイスではありません。実際の取扱いは個別の事情により異なる場合があります。記載内容は2026年8月時点の税制に基づいています。空き家の3,000万円特別控除・小規模宅地等の特例の適用可否は要件の確認が不可欠ですので、必ず事前に税理士にご相談ください。

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