相続税は、遺産の総額そのものではなく、亡くなった方の借入金などの「債務」と「葬式費用」を差し引いた正味の遺産に対して課税されます。差し引けるものを漏らさず集計すれば、その分だけ相続税は確実に下がります。一方で、「葬儀に関係する支出なら何でも引ける」わけではなく、線引きを誤りやすい項目でもあります。本記事では、控除できるもの・できないものを、実務で迷いやすいポイントを中心に税理士が整理します。

📌 正確には「債務」と「葬式費用」は別枠です

実務では「債務控除」とひとくくりに呼ばれることが多いのですが、相続税法上、債務(亡くなった時点で現に存在した借入金など)と葬式費用(亡くなった後に生じる支出)は別の枠組みで、それぞれ遺産総額から差し引きます。本記事でも分けて解説します。

相続税は「正味の遺産」にかかる

遺産総額 正味の遺産 △ 債務 借入金・未払金・未払税金 △ 葬式費用 通夜・告別式・お布施等 相続税は「正味の遺産」から基礎控除を引いた残りに課税されます
図:遺産総額から債務と葬式費用を差し引いた「正味の遺産」が相続税計算のベースになる

課税される遺産 = 遺産総額 −(債務 + 葬式費用)− 基礎控除

債務と葬式費用の集計漏れは、そのまま払いすぎにつながります。

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)についてはこちらのコラムで解説しています。本記事はその手前の「債務・葬式費用」の部分です。

控除できる債務 ― 借入金・未払金・未払の税金

亡くなった日時点で現に存在し、確実と認められる債務が対象です。代表的なものは次のとおりです。

  • 借入金…金融機関からの借入、事業上の買掛金など(死亡日現在の残高証明書で確認します)
  • 未払の医療費・介護費用…入院費など、亡くなった後に相続人が支払ったもの
  • 未払の税金…住民税や固定資産税の未納分、準確定申告で納めた所得税・消費税など
  • 未払の公共料金・クレジットカード利用残高…死亡日までの利用分
  • 賃貸不動産の預り敷金・保証金…入居者に返還義務のあるもの

💡 見落としやすい「未払の税金」

固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に1年分が課税されるため、亡くなった時点で納期が来ていない分も債務控除の対象になります。また、亡くなった年の所得に対する所得税(準確定申告分)も忘れやすい項目です。納税通知書・申告書の控えを保管しておきましょう。

控除できない債務 ― 団信付き住宅ローン・墓石の未払代金など

  • 団体信用生命保険(団信)付きの住宅ローン…死亡により保険金で完済されるため、相続人が返済する必要がなく、債務控除の対象になりません。
  • 保証債務(連帯保証など)…原則として対象外です(主たる債務者が弁済不能で、実際に履行しなければならない場合など、例外的に控除できるケースはあります)。
  • 墓地・仏壇など非課税財産の未払代金…生前に購入した墓石の代金が未払いでも、墓地・仏壇はそもそも相続税のかからない財産のため、対応する未払金は控除できません。
  • 相続に伴って生じる費用…相続登記の費用、税理士・弁護士への報酬、遺言執行費用などは、被相続人の債務ではないため対象外です。

葬式費用になるもの ― お布施はメモで大丈夫

  • 通夜・告別式の費用…葬儀社への支払い、式場費、祭壇・棺・霊柩車など
  • 火葬・埋葬・納骨の費用
  • 遺体の搬送費用…病院から自宅・式場までの搬送など
  • お布施・読経料・戒名料…寺院などへの支払い
  • お手伝いの方への心付け…社会通念上相当な範囲のもの

💡 領収書が出ない支出は「メモ」で残す

お布施や戒名料、心付けは領収書が出ないのが普通です。「いつ・どこ(寺院名など)へ・いくら」のメモを残しておけば葬式費用として控除できます。記憶が薄れないうちに、葬儀後早めに書き留めておいてください。

葬式費用にならないもの ― 香典返し・墓石・法要

  • 香典返しの費用…受け取った香典が相続税の課税対象外(非課税)のため、対応する香典返しも控除できません。
  • 墓地・墓石・仏壇・位牌の購入費…これらは相続税のかからない祭祀財産で、購入費は葬式費用にあたりません。
  • 初七日・四十九日など法要の費用…葬式そのものの費用ではないため対象外です。
  • 遺体の解剖費用など…医学上・裁判上の特別な処置の費用は対象外です。

誰が差し引けるのか

債務・葬式費用は、実際にそれを負担した相続人(または包括受遺者)の取得財産から差し引くのが原則です。たとえば長男が葬儀費用を全額負担したなら、長男の課税価格から差し引きます。誰が負担するかは遺産分割の話し合いともかかわるため、領収書とあわせて「誰が支払ったか」も分かるようにしておくとスムーズです。

なお、相続放棄をした方は原則として債務控除を受けられませんが、葬式費用については、遺贈で財産を取得しているなど課税対象となる場合に、負担した分を差し引ける取扱いがあります。個別のケースはご相談ください。

まとめ ― 領収書とメモの保存がすべて

  • 相続税は債務・葬式費用を差し引いた「正味の遺産」にかかる。集計漏れ=払いすぎ。
  • 債務:借入金・未払医療費・未払の税金・預り敷金などが対象。団信付き住宅ローン・保証債務・墓石の未払代金は対象外。
  • 葬式費用:通夜・告別式・火葬・納骨・お布施・心付けが対象。香典返し・墓石購入・初七日以降の法要は対象外。
  • お布施などは「日付・支払先・金額」のメモで控除できる。領収書とメモの保存が節税の第一歩。

必要な書類の集め方は相続税申告 必要書類チェックリストで確認・印刷いただけます。全体の流れは相続税申告の流れもあわせてご覧ください。

この記事のよくある質問

お布施や戒名料は領収書がありませんが、葬式費用にできますか?

できます。お布施・読経料・戒名料は領収書がなくても、支払日・支払先(寺院名など)・金額のメモを残しておけば葬式費用として控除できます。葬儀が終わったら早めに記録しておくことをおすすめします。

香典返しの費用は葬式費用になりますか?

なりません。受け取った香典はそもそも相続税の課税対象外(非課税)とされているため、それに対応する香典返しの費用も葬式費用には含められません。同様に、墓地・墓石の購入費や初七日以降の法要費用も対象外です。

住宅ローンが残っています。債務控除できますか?

団体信用生命保険(団信)付きの住宅ローンは、死亡により保険金で完済されるため、相続人が返済する必要がなく債務控除の対象になりません。団信に加入しておらず、相続人が実際にローンを引き継いで返済する場合は債務控除の対象になります。

参考(出典)

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する税務上のアドバイスではありません。実際の取扱いは個別の事情により異なる場合があります。記載内容は2026年7月時点の税制に基づいています。相続税については税理士にご相談ください。

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