「毎年110万円までは贈与税がかからない」——この暦年贈与(れきねんぞうよ)は、相続対策の基本としてよく知られています。しかし、やり方を誤ると「定期贈与(ていきぞうよ)」とみなされ、まとめて贈与税がかかってしまうことがあります。本記事では、連年贈与と定期贈与の違い、課税されないための実務ポイント、そして2024年改正で変わった点まで、税理士が解説します。

暦年贈与の基本 ―「年110万円まで非課税」

贈与税には、受贈者(もらう人)1人あたり年間110万円の基礎控除があります。1年(1月1日〜12月31日)に受け取った贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。これを毎年活用して財産を移していくのが「暦年贈与」です。

「連年贈与」と「定期贈与」はまったく別物

  • 連年贈与(れんねんぞうよ)…毎年その都度行った贈与が、結果として複数年続いたもの。各年が独立した贈与なので、それぞれに110万円の基礎控除が使えます。これ自体は問題ありません。
  • 定期贈与(ていきぞうよ)…「毎年100万円を10年間あげる」というように、最初から総額(または継続)を約束していた贈与。

⚠ よくある誤解

「毎年110万円を贈与するとまとめて課税される」と心配される方が多いですが、毎年あげること自体が問題なのではありません。課税の対象になるのは、「最初から総額を渡す約束だった」と判断される(=定期贈与とみなされる)場合だけです。

定期贈与とみなされると、最初の年にまとめて課税される

最初から「10年間にわたり毎年100万円ずつ渡す」と約束していた場合、国税庁の取扱いでは、その約束をした年に「定期金に関する権利」(毎年受け取る権利の価値)の贈与を受けたものとして、まとめて贈与税が計算されます。

毎年100万円 × 10年を「当初に約束」
→ 約束した年に、10年分を受け取る権利として課税

各年は110万円以下でも、基礎控除は1年分しか使えません。

つまり「毎年110万円以下だから非課税」という前提が崩れ、想定外の贈与税が生じてしまうのです。

定期贈与とみなされないための実務ポイント

大切なのは、「各年の贈与が、それぞれ独立した意思で行われた」と説明できる状態にしておくことです。

  • 毎年その都度、贈与契約書を作成する…「今後10年間にわたり」など、総額・継続を約束する文言は避け、その年ごとの贈与として作成します。
  • 金額や時期を毎年同じにしない…毎年きっちり同額・同時期だと、定期的な取り決めを疑われやすくなります(例:ある年は100万円、別の年は110万円、時期もずらす)。
  • 銀行振込で記録を残す…現金手渡しより、振込で「いつ・誰から誰へ・いくら」の証拠を残します。
  • もらった人が自分で管理する…ここが最重要です。

⚠ 「名義預金」にご注意

贈与は「あげる」「もらう」双方の合意で成立します。受贈者名義の口座でも、通帳・印鑑・キャッシュカードを贈与者が管理し、本人が贈与を知らない・使えない状態だと、贈与が成立していない「名義預金」として贈与者の相続財産に戻されてしまいます。お子さま・お孫さま自身が管理・使用できる状態にしておきましょう。

「あえて110万円を少し超えて申告する」方法の実際

対策として「あえて年111万円を贈与し、超過分の1万円に対する贈与税1,000円を納めて申告書を残す」という方法が紹介されることがあります。

  • メリット…贈与税の申告という形で、「その年に贈与があった」記録を残せます。
  • 注意点(ここが大事です)…申告・納税をしたからといって、それだけで定期贈与の判定を防げるわけではありません。定期贈与かどうかは「最初から総額を約束していたか」という実態で判断されるため、申告の有無は決め手にはなりません。また、申告書を出すこと=税務署が内容を認めたこと、でもありません。

申告はあくまで補助的な証拠です。本質的に大切なのは、前章のとおり「各年が独立した贈与であること」と「受贈者本人が管理していること」だとお考えください。

2024年改正で押さえておきたい点

暦年贈与による相続対策は、近年の改正で位置づけが変わりました。

  • 生前贈与加算が「3年以内」→「7年以内」に延長…相続・遺贈で財産を取得した人が被相続人から受けた贈与は、相続開始前の一定期間分が相続財産に加算されます。この期間が2024年1月以降の贈与から段階的に延長され、最終的に7年になります(延長された4年分は総額100万円まで加算しない緩和あり)。亡くなる直前の駆け込み贈与ほど効果が薄れるため、早めの開始がいっそう重要です。
  • 孫など「相続で財産を取得しない人」への贈与は原則この加算の対象外…法定相続人でないお孫さんへの贈与は生前贈与加算されないのが原則です(ただし、遺贈や生命保険金を受け取る場合などは対象になります)。
  • 相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設…2024年から、相続時精算課税を選んでも年110万円までは非課税・申告不要となり、この110万円は生前贈与加算の対象外です。暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、以前より個別の判断が重要になっています。

まとめ

  • 毎年贈与すること(連年贈与)自体は問題ない。
  • 「最初から総額を約束」=定期贈与とみなされると、最初の年にまとめて課税される。
  • 対策は、①毎年その都度の贈与契約書、②金額・時期を変える、③振込で記録、④受贈者本人が管理(名義預金にしない)。
  • 「あえて少し申告」は証拠の一つにすぎず、万能ではない。
  • 2024年改正(7年加算・精算課税の110万円控除)を踏まえた設計を。

生前贈与は、やり方ひとつで効果が大きく変わります。生前贈与・相続対策のページもあわせてご覧いただき、ご家庭の状況に合わせた進め方は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事のよくある質問

毎年110万円ずつ贈与すると、必ず定期贈与とみなされますか?

いいえ。毎年贈与すること自体は問題ありません。「最初から総額を渡す約束だった」と判断される場合に定期贈与とみなされます。各年を独立した贈与とし、その都度契約書を作るなどしておけば、過度に心配する必要はありません。

あえて110万円を少し超えて贈与税を申告すれば、定期贈与とみなされませんか?

申告は「その年に贈与があった」記録にはなりますが、それだけで定期贈与の判定を防げるわけではありません。判定は当初に総額を約束していたかという実態で行われるためです。各年が独立した贈与であること、受贈者本人が管理していることの方が重要です。

孫への贈与は相続のときに足し戻されますか?

お孫さんが相続や遺贈で財産を取得しない場合は、原則として生前贈与加算の対象外です。ただし、遺言で財産を受け取る場合や、生命保険金の受取人になっている場合などは対象になります。

参考(出典)

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する税務上のアドバイスではありません。実際の取扱いは個別の事情により異なる場合があります。記載内容は2026年6月時点の税制に基づいています。生前贈与・相続税については税理士にご相談ください。

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